裏サンデー・サーガ
小学館がwebで展開しているweb漫画サービスが裏サンデーである。
裏サンデーの開始当初ほかのメジャー出版社はweb漫画をやっていたのか知らんが、当時はニート社なりで非商業的に展開していたのがweb漫画の主流だった中、裏サンデーととなりのヤングジャンプは大手出版社が公式で取りまとめる商業前提web漫画の走りだったと思う、今でこそジャンプ+とか柔らかスピリッツとかコミコとか大量に溢れているが、少なくとも当時は上記の二誌しか知らなかった。
そんな裏サンデーももうそろ五周年か六周年を迎えるとか迎えないとか、今まで公言していなかったが僕は裏サンデーをサービス開始当初からずっと追いかけており、週に3,4度の購読を五年間続けている。五年間と言えばちょっとした赤子の首が座り、乳歯が生え、諸々あって年長さんになるような月日である。
そんなこんなでもはや僕の生活の一部と化している裏サンデーだが、知人との会話の中で裏サンデーの話題を一度も出した事がないことに気付いた。
これはおかしい、別に裏サンデー購読を隠すつもりはない、ただやはり急に昔話のテンションで「戸塚たくすは確かに戦略家だったけどインテリぶりは鼻についたよなあ」とか言われても誰も乗ってこれず、大事な友達を失っていくであろう事は自明である。とにかくリアルで裏サンデーの話は一生話す機会がなさそうだ。
だが忍びない、ここは雑多なインターネット空間をふんだんに使い、居るか居ないか怪しい裏サンデー回顧厨諸君へ向けて、裏サンデー一大叙事詩を語っていこうと思う次第である。
出会い
あの頃の僕は孤独だった、というか今現在この文章を書いている僕も孤独ではあるがその話は置いておこう。2012年の冬に一人暮らしが始まった、自分で望んだわけではない一人暮らしだった。一人しかいない部屋でやる事などそんなに無いし、当時は浮世から離れていきたい気持ちが強いのかテレビもなかった。
やる事と言えばエロ動画を観てオナニーするか、実家から持ってきた漫画を読むか、筋トレするか、家事をするかとかその程度の事しかしていなかった。猿とかゴリラのような生活水準であり到底文化的とは言えない。
裏サンデーに出会った日はインターネットをしていた、ちんこを握っていたか、マウスを握っていたかどうかは定かではないが、web漫画は読んでいたと思う。そんな電子の海で快楽の波に揺られる中、今やアイシールド21の人が作画をし、アニメ化し、TCG化し、腐女子の餌となった超有名作品、ワンパンマン原作サイトの更新チェックをしていた。
どんな文言が書いてあったかはさすがに覚えていないが、原作版ワンパンマンサイトのバナーに裏サンデーととなりのヤングジャンプで新連載するやで!みたいな事が書いてあったと思う。この時から裏サンデーととなりのヤングジャンプ購読の歴史が始まった。始まりはONEである。
ちなみにとなりのヤングジャンプは今はもう見ていない、ねこぐるい美奈子さんが連載終了した時点で「となヤン」への熱を失い見切りをつけた。無論、ねこぐるい美奈子さんは傑作なので興味があったら読んでほしい。
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黎明期
今でこそ日に数作品、週単位で40作品が更新されるほど大きなコンテンツとなった裏サンデーだが、閲覧を始めた当初は平日に1作品ずつ更新される程度で、今と比べればコンパクトな内容だった。
当初はワンパンマンの作者が描いていた「モブサイコ100」だけを読んでいたが、すぐ別の作品にも食いついていく事となる。コンパクトなサイトとはいえ、当時からweb漫画界トップを走る作者をふんだんに使用したパワーの高い連載構成だったと思う。ケンガン、ヒト喰い等とにかく毎週が楽しみだった。
そんな中、黎明期で特に語るべき漫画と言えば「ゼクレアトル~神マンガ戦記~」だろう。裏サンデーを前衛的なweb漫画誌へ方向づけた作品と言っても過言ではないゼクレアトルは裏サンデー影の立役者である。なによりゼクレアトルという作品そのものが戸塚たくすサーガと言っても過言ではないほど、作者戸塚たくすの思想、恨み辛み苦悩が色濃く反映された内容であり、読んでいるとまるで作者とコミュニケーションをとっているかのような気持ちになって勝手に戸塚たくすの人となりを知れた気分になる。
おまけ漫画がよく載ったり、編集が作家をいじったりする様な裏サンデーの文化が出来上がったのは、ゼクレアトルと戸塚たくすのおかげだと思っている。
僕が裏サンデーを好きなのは作品に作家の人間性が透けているところでもあるのだ。
作家弄りで外せないのは岡部閏だ。岡部閏は「世界鬼」という漫画の作者で、世界鬼はこれまた黎明期を立派に支えた良い漫画だった。世界鬼からも岡部閏がにじみ出ていて毎週楽しみだったのを覚えている。
岡部閏はポケモンバトルガチ勢でもあるがゆえに、連載を落としてしまうこともあった。ポケモンバトルガチ勢であるがゆえに、ツイッターで嫁ポケ(強くはないが可愛い等強さ以外の理由でガチのバトルに使われるポケモン達)を使うやつを批判して、嫁ポケ肯定派である一般人の嫁ポケにバトルでボコられてポケモン引退した挙句、一連のやり取りが編集にバレて説教を食らったりもしていた。とにかく面白い奴である。詳しく知りたい人は「岡部 嫁ポケ」で調べるといい。
踊り場~変革期
ゼクレアトルの打ち切りが告知される。なぜか作画者がいなくなり「オーシャンまなぶ」で見慣れた戸塚たくすの汚い絵が誌面に載る。同時期、編集部の当初目論見では単行本売上のみで裏サンデーを運営しようとしていたらしいが、収益のモデルが成り立たなくて裏サンデー廃刊しちゃうからコミックス買ってくれい!とか言い始める、裏サン編集はプロとして恥ずかしくないのか。
サービス開始から一年たった頃、裏サンデーは悲鳴を上げていた様に思う。内部事情は知らないがゼクレアトルが打ち切りされた時期の裏サンデーは心なしか閑散とし、陰鬱とした雰囲気が広がっていた。もしかしたら作家を一通り使い尽くしてしまったのかもしれないし、本当に予算もなんも無くなって作家を雇えないような厳しい懐事情だったのかもしれないし、どちらともなのかもしれない。ただここで裏サンデーが凄かったのは新人発掘に活路を見出したことだ。これにより後の裏サンデーを支える人材が大量に掘り起こされていく。当時の新人作品で未だに印象深いのは「異能力バトルロイヤル」、「寿司 虚空編」である。
ちなみに寿司虚空編の作者である小林銅蟲のブログをハテナで偶然見つけたので最近よく読ませてもらっているが、ホントに漫画家かよと言う位飯の話題しか出てこないし、飯の内容が逐一面白くて過去分も漁ったりしている。
めしにしましょう/小林銅蟲 一の膳 - モーニング・アフタヌーン・イブニング合同Webコミックサイト モアイ
小林銅蟲、飯の漫画書いてた。即買った。
復活期
きっと新人発掘という行為は裏サンデーにとって厳しい決断だったろうし、一か罰かという側面もあったに違いない、だが埋もれに埋もれ、拗れに拗れた人材が蠢くWEBで金脈を掘り当てていった裏サンデーは見事復活を遂げる事となる。
上記に加え過去話分の閲覧制限を導入したりする事で漫画の発行部数を伸ばせたらしい、この事で以前のような漫画かってくれと言う恥ずかしい告知は無くなり、収益構造も改善されたのだろう。ちなみに僕は今でも毎週の最新話だけweb上で読むスタンスを貫いているため、偉そうに裏サンデーの歴史を語りながら、これまで裏サンデーに関連して小学館へ落した金額は0円である。
勇気の決断は功を奏し、2013年の終わりころから新人発掘出身の素晴らしい作家が次々に出てくる事となる。「懲役三三九年」なんかはとにかく優れたプロットとして語り継がれるべき名作である。
この時期で特筆すべきと言えば「Helck」の連載開始だろう、いまや裏サンデーの看板漫画の一つとなったHelckだが、連載当初は異世界物のギャグマンガかな?程度の評価としていたが、まさかこんなに面白くなるとは思っていなかった。ダークファンタジー物としてハガレン、ベルセルクと並べても遜色が無い。
安定期
こうして踊り場を抜け復活を遂げた裏サンデーはたまに挑戦的な企画を挟みながらも現在まで安定した稼働を続けている。
辱事件は記憶に新しい、美少女漫画家にべらぼうに残酷な描写を描かせた「辱」という問題作がある。掲載したのもつかの間、すぐ掲載を中止して当時のWEB漫画業界を沸かせていた。
最近では「灼熱カバディ」、「送球ボーイズ」といったニッチ層へ向けたスポーツ漫画がアツい、どちらも競技ルールは良くわかっていないが、それゆえスポーツ漫画に大事なのはアツさと人間模様であると再認識させられる。
最後に
安定期は最近読んでる漫画をただ紹介するだけになりそうなので書くのをやめた。
裏サンデーはサービス開始からこれまで、紆余曲折ありながら数々の名作を生み出してきた。世の中はピラミッド構造である。数々の名作のすぐそこには数々の駄作たちが転がっている。
僕は裏サンデーに連載されてきた語るべきではない駄作達も、名作達と同様に愛を持って接する事が出来ている。無料コンテンツ故に。
もしコミックスで買っていたとしたら破り捨ててけなしまくるであろう作品でも、無料で読める分には「駄作だな~、無料にしては良かったよ、次頑張ろうな。」と好意的に接する事が出来るのだ。裏サンデーは良い。