飛ぶ鳥を落とす勢い
よそいきの郵便をしたためる必要があったので頑張って清書していた。
元々字は汚い方、と言うか小学校時分の未だ稚拙な脳みそしていた同級生達を除き、僕より汚い字を書くやつは見たことがない。
とはいえこれまでも字が汚いなら汚いなり、誠意という言い訳をもって、なんとなく丁寧に書いてる感を出すことにより急場を凌いできた私だが、ついに凌げない漢字に出くわしてしまった。
飛だ。
住所なんかを一通り書き終わり、さて宛名を書くとしようか、飛山飛男(仮名)っと。
あのさあ・・・これ全力なんですけど、飛ってむず過ぎと違いませんか?
まずね、字汚い勢から言わせていただきますとですね、はらいとかはねとかありますよね?あれって僕らからすると全部ランダム要素なんですよね、100回やったら100回違う結果が出るわけですよ、その日の湿度とか風向きとかに左右されるわけで正しくはらわれはねれるかどうかは運次第なんですわ。
そんなランダム要素を極力排す為にね、我々はね、長年の研究によって全て止めるっていう術を確立していった訳。分かりますよね?
そんで見ての通り、飛って漢字ははらいとはねのハーモニーで字体が構成されてるんですわ。
以上により結論付けると、はらいとはねを極力排す進化を遂げた我々人類には、はらいとはねのハーモニー字体「飛」という漢字は書き得ないものとなってしまいました。
辛うじて右上が及第点か?ただもう飛を書くのに緊張し過ぎて線が弱弱しくてダメですね。せめて線の量がもうちょっと密集してくれればもうちょっと誤魔化しが効くんですがね・・・
これだ・・・我々はかねてよりコンピュータに囲まれ育ってきた。
はらいはねとは筋肉の微小な強弱により表現される、極限にアナログな筆記法であるわけで、デジタルなコンピュータボーイ達にとって荷が重いのは当然であった。この論理に気付けた私に敵はいない。飛をこちらのフィールドに持ち込めば良かったんだから。
そして飛のはらいはねというアナログな要素を全て無視し、できるだけデジタル的なガウス的な筆の動きをする事に決めた。
今ここに「飛デジタル書体」が誕生したのだ。